業務量増大に対する医師不足
近年、インフォームド・コンセント*1など、患者の権利と自己決定権を尊重する傾向が高まっており、あらゆる処置や検査のために、医師が患者にリスクとメリットを説明されることが求められるようになった。さらに、規制強化による文書類の増大化が進み、これもまた、医師の過剰労働の原因のひとつとなっている。
*1 Informed Consent
「正しい情報を得た(伝えられた)うえでの合意」を意味する。医療行為や治験などの患者・被験者が、治療や臨床試験の内容についておく説明を受け、十分に理解したうえで(Informed)、自らの自由意思に基づいて方針について合意する(Consent)ことである。
当然、説明を受けたうえで拒否することも可能となる。
説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果だけでなく、代替治療や副作用、成功率、費用なども含んだ、正確な情報が与えられることが望まれる。
また患者・被験者側も納得するまで質問し、説明を求めなければならない。
(英語の本来の意味としては、あらゆる法的契約に適用される概念だが、日本語で用いる場合は、医療行為に対してしようされる)
集約化不足による医師不足
日本は国土が狭く、中核の病院から100㎞以上の距離にある場所は少ない。ただし、同様の理由で国民の距離感覚は短いことがもっぱらであり、100㎞圏内・2時間圏内に中核病院があったとしても、病院が遠すぎる、あるいは病院がないと認識してしまうことが多い。
その結果、小規模の医療機関に小数の医師が分散し、各機関での医師の補充を難しくしているといえる。
前回まで医師不足の原因について、いろいろと見てきました。いろいろなメディアで、医師不足が叫ばれていますが、その実態についてはなかなか知られなかったと思います。
さて、今回は、その医師不足についての対策を見ていきます。現在行われている対策は全部で5つ。どのようなことが、行われているのでしょうか。
医師不足への5つの対策
1.医学部増員
厚生労働省は、医師不足対策の一環として、国立大学医学部の入学者を増員することを予定しています。しかし、卒業生が現場で働けるようになるまでにはかなりの年数を擁し、即効性はあまり期待できないのが現状です
2.女性医師の待遇改善
医師不足の原因にもあげましたが、女性医師が増えているとはいえ、その待遇に満足できる状況でないことも確かです。
出産・育児ののちに、女性医師が再び現場に復帰しやすいような環境、あるいは、両立できるような環境作りが模索されています。しかし、医療現場の現実はこれまで述べたように厳しく、改善に向かうことは、すぐには期待できそうにありません。
3.外国人医療従事者の招致
近年、医師や看護師を外国、特に途上国から招致しようという動きがあります。しかし、日本で医師免許を取得するためには、日本語で国家試験に合格できるレベルの語学力が必要となります。
また国家試験を受ける前にも、日本語能力試験や日本語診療能力試験に合格するなど、ハードルは多くあります。アメリカの医師免許であるUSMLEは、世界50か国に受験会場がありますが、日本の医師免許にはそのような整備がされていないなど、制度上の遅れもまた、存在しています。
経済的理由もあります。2008年にアメリカで行われた調査によると、アメリカの看護師の平均給与は年間65,130ドルであり、現在のレートで日本円に計算すると、年間612万円となります。対する日本では、平成22年の調査で469万円が平均年収となっています。このような給与差があるため、他国の看護師が日本を移住先としてあえて選ぶことは少なくなるのです。
4.コメディカルの活用
和製英語で、Co-medical(英語ではparamedic)とつづります。これは、医師の指示のもとに業務を行う医療従事者を指し、コメディカルスタッフとも呼ばれています。
医師の業務の多様化に伴って、医師業務の一部を看護師・介護士・事務員・検査技師などが代行できるような制度改革が検討されています。しかし、一部の公立病院などでは正規雇用の事務員や看護師の方が長時間の超過勤務をしている非正規雇用の医師よりも実態の時給が高いため、コメディカルに医師の仕事を一部代行させることは、病院経営の上では、不利となってしまいます。
5.医師の需給規制
現在、医師の計画配置の提案がされています。
たとえば…
開業医の一時的病院勤務の義務化
院長になるための条件として、僻地勤務経験の義務化
産婦人科・小児科の研修の義務化
各診療科ごとの定員設定
上記のような内容です。
しかしながら、以下のような懸念も、同時にあります。
赤字経営の開業医のさらなる負担
技能習得のための、数年の他科勤務は現実的ではない
これまで以上の負担は、医療職希望者の減少につながる
医籍登録は都道府県単位で行われており、県を越えた保険診療ができない
したがって、医師の計画配置は難しいというものです。ただし、最後の医籍登録に関しては、その規制を取り払うことで、
計画配置の必要性も低減するかもしれません。