医学部小論文頻出ワード『医師不足』第一回

今回のテーマは【医師不足】について。できるだけ見やすく書いていきますので、どうぞ、目をお通しください。

平成20年度の医師数調査では、医師数は286,699人と報告されています。これは人口1000人につき医師およそ2.2人となる計算です。

また、こちらは2008年にOECD(経済協力開発機構)が行なった調査ですが、先進国のアメリカは1000人あたり2.4人、フランス3.34人、ドイツ3.56人、イギリス2.61人となっております。OECD平均は3.0人。アメリカ・イギリスと並び、日本の医師比率は、平均以下という結果になりました。医師数の最も多い京都府でも2.7人と、おなじく平均以下です。

では、なぜこのような事が起きているのでしょうか。

医師不足の原因

これには、以下のような理由が挙げられています。

医師の絶対数の不足
病院での必要医師数の不足
地域偏在による不足
診療科に属する医師の偏在による不足
給与レベルに属する医師不足
外来患者数に対する医師不足
業務量増大による医師不足
集約化不足による医師不足

以上、8つになります。

医師の絶対数の不足

先述のとおり、日本国内における医師の数は、およそ29万人といわれており、この数値はOECD加盟国の平均以下となります。

さらには、この医師数調査は医師免許所有者をすべて医師としてカウントしており、たとえば結婚退職した女性医師や、高齢退職の医師を除外すると、フルタイムで医療従事をしているのは、213,000人となるそうです。この数字で計算をし直すと、人口1000人あたり1.6人ほどの数字となってしまいます(粗い計算ですが、ご容赦を)。

(前回アメリカやイギリスとそれほど変わらない数字を出しましたが、向こうでは、フルタイムの医師で計算をしています)

女性医師の数は年々増えていますが、結婚・出産・子育てなどと医療を両立させる環境が整っていないのは、他業種と変わらず、結果として、臨床の現場に復帰できずに家庭に入ってしまうケースもあり、現場に出ている医師数減少に拍車をかけている部分があります。

医師数自体は増えていると言われますが、長年続いてきた医学部定員抑制(*1)の結果、44歳以上の医師と、医師免許をもっているだけの元医者が微増しているだけであり、若手医師は増えていないのが現状です。

*1 日本国内では、医学部卒業と医師国家試験合格によって、医籍に登録され、医師として活動をすることがかのうとなる。しかし、その数が増えすぎた場合は、医師や病院の間で過当競争が生まれることが、危惧される。1970年代中ごろに、各県一医大の構想と私立新設医学部の急増により、医学部入学定員が大幅に増やされた。それを受け、医師の過剰が現実的に想定されたため、1984年以降、医学部の定員が最大時に比べて7%減らされることとなった。医師数抑制を最初に提起したのは厚生省ではなく、第二次臨時行政調査会だった(1982年7月、「行政改革に関する第3次答申‐基本答申‐」)。

同会の提起によって、医師抑制策が政府決定となる。それ以前からも医師出身の医系議員が国会で医師過剰論を唱えたり、マスコミも疑問をもつことなく、医師過剰を『事実』として報道した。しかしながら、『医師過剰』の数字は終戦直後の計算方法によって求めたものであり、当時から日本の対人口医師数は、すでにOECDの平均を下回っていた。
病院での必要医師数の不足

従来、地域の総合病院が医師を確保する方法としては、医局の人事による派遣が主であった。したがって、人事権は各科の医局の一存で決まっていた。このシステムによって地域の総合病院の人的資源は維持されていたが、その非民主主義的な側面を問題として取り沙汰したマスコミや官僚により、医局解体が叫ばれるようになる。

そして平成16年4月からの新医師臨床研修制度により、医局解体の実質的な動きが始まることとなった。この新医師臨床研修制度の開始に伴って臨床研修指定病院*2の要件が緩和される。それ以前は、大学病院など特定の病院でしか研修ができなかったが、これによって民間病院でも研修が可能となった。そうすることで、研修医は大学の医局に属することなく初期研修を受けることができるようになり、医局の人事権が失われていったのである。

また新人医師は多彩な症例が多く見られる病院を選択する傾向があり、また薄給で医療とは関係のない下働きが多いとされた大学病院や症例の少ない地方病院小さな病院での研修を避けるようになった。しかも、都市部の民間病院においても医師不足は深刻なため、研修後も、多くの医師は地方の大学病院に戻らなくなる。

この一連の流れを受け、大学病院での医師が不足するようになり、大学病院は高水準の医療をいしするために、地方に派遣していた医師を呼び戻すようになる。こうして地域の総合病院などから医師が引き上げられ、地域病院の診療科が次々と閉鎖されるなどの問題が、日本の様々な場所でみられるにまで至った。

*2 臨床研修指定病院とは、医学部を卒業し医師免許を取得した医師(研修医)が卒業後2年間、基本的な技術や知識(初期研修)をいにつけるために籍を置く病院である。『指定』とあるように、厚生労働省の審査を受け、指定を受けた病院のみが研修医と雇用契約を結び(研修医であり勤務医でもある)、受け入れが可能となる。