医学部入試小論文の頻出ワード『脳死・臓器移植』

脳死とは

かねてから、人の死を決定付けるのは心臓の停止だとする考えが当たり前でした。呼吸の停止、心拍の停止、瞳孔の拡大の三つのいわゆる三兆候説と呼ばれるものです。医師が死亡確認の際に呼吸、脈拍、対光反射の消失を確認することはこれに由来しています。

しかし、交通事故などで脳に大きな損傷を受けて、脳の機能が不可逆的に停止する場合があります。つまり、人工呼吸器などの生命維持装置で生かされている状態です。この状態を脳死といいます。

臓器移植とは

臓器移植とは、病気や事故などで臓器が機能しなくなった場合に、他人や他の動物の健康な臓器を移植することをいいます。さらに、臓器の提供者をドナーといい、臓器を受容する者をレシピエントといいます。ドナーが生きていれば生体移植、死んでいれば死体移植といいます。

臓器移植の目的は、ひとりでも多くの患者の苦しみを緩和して、尊い生命を救うことにあります。しかし、未だに問題点も多いです。まず、脳死判定の正確性や安全性に問題が残ること。そして、人体を機械の部品のように扱うことで臓器売買が行われ、生命倫理上の問題があること、とくに子供は臓器売買に関するビジネスや犯罪に巻き込まれやすいこと。さらに臓器が欲しくて患者の延命治療を積極的に行わない医療現場の風潮が生まれる可能性があること。このような問題が挙げられます。

旧臓器移植法の問題点

日本では1997年、臓器移植法が成立し、臓器移植を前提にした場合のみ、脳死判定によって脳死を人の死と認め、臓器移植が可能となりました。これによって、脳死体から臓器移植をすることで、多くの患者を救うことにつながる道が拓けたといえます。

ただし問題点もあります。同じ脳死状態であっても、臓器移植を前提にした場合は、脳死判定を経て患者は死んでいることになります。しかし臓器移植を前提としない場合は、患者は生きていることになり、心臓の停止によってはじめて死んだことになります。つまり、2つの死が存在する結果になったのです。また、患者本人による書面での臓器提供の意思表示と家族の同意が必要だったり、15歳未満の者からの臓器提供や、親族への臓器の優先提供は認められないという事情から、臓器移植があまり進見ませんでした。実際、2009年の春までに行なわれた臓器移植は約80名にとどまっています。

新臓器移植法の改正点

2009年、なかなか進まない臓器移植を増やす方向で臓器移植法が改正され、以下の4つの点が大きく変わりました。

1つ目は、臓器移植の場合という条件を撤廃し、一律に脳死を人の死とするようになりました。2つ目は、患者本人の書面による意思表示を不要とし、患者本人が拒絶しない限り、家族の同意のみで臓器摘出が可能となりました。3つ目は、臓器提供者の年齢制限を撤廃し、15歳未満の者からの臓器移植も可能となりました。4つ目は、親族への優先提供が認められるようになりました。

臓器を待つ患者の立場から見ると、よい方向に改められたといえますが、患者の意思表示を不要するという点については、脳死状態にある患者の人権が軽視されかねないため、今後さらなる議論の余地が残されています。また、患者本人の書面による意思表示が不要となったことで、家族が臓器提供に同意するかどうかの判断をしなければならず、大きな精神的負担を強いることになると批判されています。

また、旧法では臓器提供を受けるのは、移植ネットワークによって作成された移植待機者リストの順番に従って決定されており、脳死患者の親族への優先的な臓器移植は認められていませんでした。改定後は脳死患者の親族に対して、臓器移植が必要であれば優先的に提供がなされることになりました。