医学部小論文頻出ワード『医師不足』第二回

地域偏在による不足

前回述べたように、日本は医師の数が絶対的に不足しており、また民間病院からの医師引き上げで、僻地から医師がいなくなるケースが生じている。各病院は自力で医師を探すことを強いられているが、実際問題として僻地と呼ばれる地方の病院に自主的に勤務する医者は少なく、結果として、地域偏在による医師不足が顕在化し始めた。

都会の病院や地方の大病院、あるいは有名病院は症例数が多く、新たな技術を学ぶチャンスに恵まれやすい。そうしたキャリア形成につながる状況を、やり甲斐と考える医師は多い。居住する地域の利便や子どもの教育環境を考えて、都会の病院を選択する医師もいる。また僻地の状況によっては、ほぼ24時間365日の拘束を求める病院もあり、体力的な問題から辞めるケースもみられるようになった。

一部の地方病院では、高額な報酬を設定して医師を招聘するといった試みが行われているものの、時として、求めに応じた医者に対して中小めいた発言が、市議やマスコミからされることもある。こうした社会的要因もまた、医師の定着の障害となっている。
診療科に属する医師の需給不均衡による不足

現状として、内科・外科・小児科・産科・救急は過酷な勤務状態にあり、転科したり、そもそも志望する医学生が減ってきている。2004年から始まった新臨床医研修制度において、2年間の間に複数の科を研修するスーパーローテート式の臨床研修が、事実上義務付けられた。それまでは大学卒業後に、そのまま志望する科の医局に入局していた。

これを言い換えるならば、新人医師は志望する科の具体的イメージを作り上げる前に、自身が勤務する科を選択していた、ということになる。しかし、この新しい研修制度によって、様々な科について診療を行う必要が生じた。そのため、志望する科の過酷な医療状況を認識し、志望変更するケースもある。特に産科は、福島県立大野病院産科医逮捕事件*1の影響により、「逮捕されるリスクある」との認識が広まり、産婦人科を婦人科のみにしたり、産婦人科を志望していた医学生が同科を選択肢から除外する傾向が強まっている。

また従来の勤務医も、過酷な労働条件に耐えかねて退職や開業をしたりと、勤務条件の悪い総合病院等の特定診療科における医師不足の拍車をかけている。こちらも前々回述べたように、女性医師が増加しているが、家庭と仕事の両立がなかなか実現していない科は増々敬遠され、労働環境がさらに悪化してしまうという悪循環が見られる。

ちなみに、病理診断科、臨床検査科は平成20年度から標榜診療科になったばかりであるが、そこに働く病理専門医や臨床検査専門医は、絶対数が不足している。また、監察医や解剖医の不足も、医師不足の一種といえよう。

*1平成16年12月17日、福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことで、手術を執刀した同院産婦人科の医師の1人が、業務上過失致死と医師法違反の容疑で逮捕・起訴された事件である。平成20年8月20日、福島地方裁判所は被告人を無罪とし、控訴は行われなかったが、医療従事者に与えた影響は大きい。

給与レベルに属する医師の偏在による不足

現在の医療保険制度では、診療報酬は医師の技量や経験と関係なく支払われる。よって、病院経営者としては高給のベテラン医師より給与の低い若手医師を雇用する方が経営が有利となるのは、当然である。

前回挙げた、2004年開始の新医師臨床研修制度により、医師は卒業時に地方の大学を離れ、研修環境の整った都会の病院を研修先として希望するようになり、経験と技術を、優れた環境で身に着けることとなった。これが新医師臨床研修制度の本来の目的ではあったが、このことにより、給与の安い医師が地方から減り、地方の大学も若い医師を地元の病院に供給することができなくなった。

その結果、地方病院の経営が圧迫されることになったのである。

外来患者数に対する医師不足

日本の医療費は、世界的に見ても非常に安価であり、患者は気軽に受診し、結果的に日本の医師は、年間平均8500人の患者を診察している。アメリカの年間平均は2200人であり、およそ4倍だ。医師の過剰労働となり、現場を離れる医師が増えるのも当然である。